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東アフリカの風を感じる−「ティンガティンガ」
暑い季節になると思い出すのは、東アフリカの大地だ。行き先は、アフリカ大陸のケニア・タンザニア。遠く離れたその地に、熱いものを感じていた。大学生になって初めての夏、初めての「旅」だった。航空券とパスポートだけを握って飛行機に乗った。 ナイロビ到着の次の日には、お決まり「サファリツアー」に参加した。それから、思い立ってすぐに、キリマンジャロ山の登山に挑戦した。アフリカ大陸最高峰からサバンナを見たい、という大儀名分もあったが、半ばヤケクソだった。疲れすぎて口を閉じていると、空想癖もひどくなる。心の中では、これで登頂できたらきっと「椎名誠」も真っ青に違いない、などと会うこともないであろう椎名誠のことまで考えた(彼はアフリカ旅行に関する文庫を出している)。まあ、そんなこんなで15日が過ぎた。その時までで、日焼けした鼻の皮は二回むけた。 ここまで私は、自然を見たい動物を見たい、と「Africa」のステレオタイプそのままの旅をした。「アフリカ大陸」──私たちはそれを一つにくくってしまいがちだと思う。以前からの開発問題や、また最近は、一部地域の政治問題も目を引く。だが、これらを抜かしてみればこの位のイメージに限られてしまうのかもしれない。そのイメージは、基本的にブラックアフリカで、永遠に続く広大なサバンナで、多様な動物達の棲みかだ。自然の豊かさが強調され、実際人々の頭に浮かぶのもキリンだったり、シマウマだったり、ライオンだったりするだろう。だから、私が訪れたキリマンジャロ国立公園にしろ、アフリカ大陸で世界遺産の指定を受けたものの多くは自然遺産なのかと思ってしまう。だが、実際には文化遺産がその自然遺産の数を上回る。なかなか「文明」という言葉と「アフリカ大陸」を結び付けにくいが、そこには確実に、様々な人々がいて、文化が根付き、その中で優れた芸術作品も多く存在している。 イスラーム圏の北アフリカを除いたブラックアフリカで、ケニアとタンザニアを旅した際に特に印象深かったアートと言えば、タンザニアで出会った「ティンガティンガ」というモダンアートだ。人々の生活や動物を描き、自然がテーマの大きな部分を占める作品からは、生命の力やエネルギーが溢れ出ている。それこそ、所謂「アフリカ」のイメージを題材にしつつ、ただイメージそのままでなく、人間の眼や感受性によって新たな魅力が生まれる。 興味深いのは、ティンガティンガを始めた作者の生い立ちにもある。ティンガティンガの生みの親、タンザニアとモザンビークの国境に近接する地に生まれた、Eduardo Tingatingaは、美大に通ったわけでもない。たまたま彼が、働き先の建築現場で、建材の板に自転車用のペンキを塗って絵を描き始めたことから、始まった。現在では、彼の構図や精神を引き継いだアート全般をティンガティンガと呼んでいるという。 ティンガティンガの評判な、タンザニア在住のノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク人達によってたちまち拡がった。Eduardo Tingatinga死後も、多くのアーティスト達がティンガティンガを描いているという。どういうことか? このアートが面白い点は、「この地におけるモダンアート」の意味合いだ。ティンガティンガの始まりから言えるように、それは特別「芸術」という形で確立されたのではない。むしろ、欧米では「Airplane art」という言葉が存在するように、ティンガティンガは、発展国の人々の要望によって需要が増したアートだ。もとはと言えば、北欧諸国による開発援助から始まり、その後援助というよりは、文化面での発展が大きくなっていた。北欧諸国による展覧会も盛んになった。ティンガティンガの芸術家達は、北欧諸国の芸術家たちと構想を練り、市場で喜ばれるアートの形を模索したそうだ。80年代に行われた遠距離の愛好家達にとって、持ち運び易い大きさが考えられ、また、こうした客達にとって「アフリカらしい」モチーフが好まれる現状がある。 とはいえ、もちろんベースには特有のスワヒリ文化がある。絵の面には、隙間を開けないことを特徴とし、それ故に三、四の動物達が重なり合い、所狭しと描かれている。そう、特筆すべきは、やはりティンガティンガが出来た背景だろう。北欧諸国の人々と、タンザニアのアーティストの協力があって、現在のティンガティンガが存在する。West meets Africa. Africa meets West. 最初は、世界の一部で興った芸術だった。イギリスや米国も、自分達の領域外の出来事に初めはそこまで関心を抱かなかった。それ故、英語での書物出版も少なく、「ティンガティンガ」というアートは、北欧諸国以外の人々にはなかなかぴんときにくかった。それが、今では時代を経て、世界のあちこちで、知る人ぞ知る、になっている。 一つの出発点と一つの目的地をつないでいた「Airplane art」は、もはや二点をつなぐだけでなく、世界に発信されるようになった。それは、「アフリカらしさ」を持っており、加えて「芸術」か否かの間を行く、その微妙なバランスが興味深い。作品の美しさの裏にあるストーリーに、人々はその面白さや独創性を感じるのかもしれない。 【三木はる香】 参考資料:スウェーデンで紹介されているティンガティンガ作品 http://art-bin.com/art/atinga.html |