|
最近、やたらと居酒屋に行きたがる自分がいる。最初に言っておくと、日本酒もビールも好きだけれど、あまり量はこなせない。飲むのは自分で楽しめる範囲までと決めている。子どもの頃から塩辛だとか酢じめの魚だとかのつまみ系が好きだったから、お酒と縁遠い人生は送らないだろうとうすうす予感はしていたが、その予感は現実になりつつある。集団で騒ぎながら飲むのも楽しいのだけれど、気心の知れたひとびとと少人数でまったり飲みたいというのが、この夏の私の希望である。 この居酒屋行きたがりは、遅ればせながら川上弘美の『センセイの鞄』を読んだことにおそらく端を発する。70を越えたセンセイと40手前のツキコさんの居酒屋に始まる物語は、恋愛っていいなということでも深い余韻を残したが、居酒屋っていいなということでも、深い余韻を残したのである。2人の「蓮根のきんぴら、まぐろ納豆、塩らっきょう」の注文がかぶる冒頭のシーンは何度でも読み返したくなる。これが出会いだなんておもしろい。 というわけで、居酒屋に行きたがっていた私を、友だちが誘ってくれた。行き先は吉祥寺のいせやである。いせやというのは吉祥寺に2軒もあってわりと有名なのに、行ったことがなかった。居酒屋じゃなくて焼き鳥屋じゃないかと言われれば確かにそうだけれど、居酒屋初心者としては充分なのである。いせやの店内は、会社帰りのおじさんから、子ども連れの家族、カップルまで、いろいろなひとびとの熱気と焼き鳥の煙とに満ちていた。1階が既に満杯で、待つのかなと思ったら2階があり、混んでいるわりにはすんなり入れた。それもそのはず、入り口からして一見狭そうに見える店内だが、実は左右に奥行きがあって、どこまで店が続くんだろうと感じるほど席の数が多いのである。 店内はざらついた砂壁にビール片手に水着のキャンペーンガールが笑顔で貼りつき、BGMにチェッカーズがかかっているあたりが一昔前の懐かしい雰囲気を醸し出す。とりあえず、枝豆やら自家製シュウマイやらをつまみながら、生ビールで乾杯した。久しぶりで会う友だちなので、お互いの近況報告に花が咲く。焼き鳥もたくさん頼んだ。いせやは庶民的で、肩ひじはらずに安く楽しめるところがいいなと思った。夏の居酒屋挑戦第1号としては上出来である。 居酒屋では一緒に行く人とちょうどよい距離感で時間を過ごすことができる。この夏はまだまだ居酒屋を開拓して、思い出の中に居酒屋を織りこむつもり。 【白土翔子】 |