表参道駅から徒歩5分のところに、ナディッフ(NADiff: New Artist Diffusion)という、写真集や本、CDなどアート関連のグッズがたくさん置いてあって、デザインの勉強をしていそうな若者やらおしゃれな雰囲気を持つひとが次々に訪れるスポットがある。中にはカフェもあって展覧会用のちょっとしたスペースまでとってある。わたしは写真家、蜷川実花の展示が開催中だったので、たまたまそこに足を踏み入れたのであった。だから、本当のことを言えば、わたしは日常的にこういうおしゃれスポットに通う人ではない。だけど、ナディッフの雰囲気に触れ、蜷川実花の作品を見て、こういうスペースが次代のアートを担っていく若者に情報を発信する重要な役割を持っているのだなと考えたり(少し大げさかもしれないけれど)。職業としてアートに関わらなくたって、アートを楽しむ人にとって大切な空間であることを感じたりした。

 肝心の写真展「アシッド・ブルーム」について。蜷川実花は1972年東京生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科在学中からさまざまな公募展に応募し、多くの賞を受賞している。特に2001年には、写真界で最も権威のある「木村伊兵衛写真賞」を受賞。現在は写真集、展覧会での作品発表をはじめとして、ファッション誌やCDジャケットなど活躍の幅は広い。今回の展示では題名の通り、少しどぎついくらい鮮やかな色彩が印象的な花が主題だった。青空を背景に生命感あふれる赤やピンクや黄色などの色とりどりの花が目に飛び込んでくる。彼女の写真は空の青さ、花びらの色彩、葉や茎の緑といった自然の色がとても強い主張を持っていて、その美しさや迫力に圧倒される。被写体の持つ生命力が効果てきめんに伝わる、とでも言おうか。

 今回の展示ではテーマは花を中心にして限られていたけれど、蜷川実花は今までに世界各国を旅行して現地の人々や風景を撮ったり、モデルやタレントの写真集を撮ったりと、幅広い対象にカメラを向けてきた。わたしは今までの彼女の作品をすべて見たわけではないけれど、例えば人を対象に撮った写真も、鮮やかな色の中で被写体の持つ生命力がフルに切り取られている印象を与えた。見る側にこの世界に存在するさまざまなものの生きている力が伝わってきて、元気になれたり幸福になれたりする写真が多いと思う。
 自分が植物になったような気分になる時、
 花にとまる小さな昆虫のような気分になった時、
 そんな時にシャッターをきった。
 意識がはっきりしている時に撮った花は、
 ただただ美しいだけで
 花以上のなにかには、決してならなかった。
 花を撮るという行為は、私にとって、
 花以上のなにかになること。
 良い写真が撮れる時、私は必ず、
 この世とあの世の境目のような、
 無意識な宙ぶらりんなところにいる。
 これは、展示「アシッド・ブルーム」に際しての蜷川実花のメッセージであるが、写真家というアーティストの持つ独特の視点が表れている気がする。また彼女のプロフィールを見ていて、はっとさせられたのは、「宝物は何ですか」という質問に対して、「才能」と一言答えていたこと。

 夏休みが始まるまえ、友だちが「今年の夏は感性を磨く夏にする!!」と言っていて、その子と一緒にわたしも「感性を磨く」ために何をしようか一生懸命考えた。その中には、わたしが提案した星空を見に田舎に出かけるというものがあって、それが友だちの気に入ったようだった。ところで、改めて考えよう。「感性を磨く」とはいったいどんなことなのか。    広辞苑によれば、「感性」とは、(1)外界の刺激に応じて感覚・知覚を生ずる感覚器官の感受性。(2)感覚によってよび起こされ、それに支配される体験内容。従って、感覚に伴う感情や衝動・欲望をも含む。──ということである。それを磨くとは、要するに、自分の外の世界に対する感覚を鋭敏にしたり、自分の感覚が受容できる範囲を広げたりして、感受性を豊かにするということか。(友だちは違う意味で言っていたかもしれない)「感性を磨く」ことを通じて、人は自分の本能的な感覚や感情にもっと素直になっていくのかもしれない。

 「感性を磨く」こと。こういった写真展などでアーティストとされる人の作品に触れると、自分にはない感受性やものを創り出すパワーを感じる瞬間がある。それが、アーティストとしての生命線となる、才能なのかもしれない。そういった才能を職業として発揮するアーティストの域まで行かなくても、人は多かれ少なかれ感受性という受容装置を秘めているのではないか。わたしにとって、「感性を磨く」ことは生きるときの喜びに大きく関わってくる気がする。そこで、友だちの提案に今さら共感した次第。こういったアーティストの作品に触れることも、「感性を磨く」ことの1つになるかも。夏休みも残り20日。自由に使える時間を大切に、生きるパワーを養っていこう。

【白土翔子】


*東京都写真美術館
 「日本の新進作家ー幸福論」展参加
 9月9日(火)−10月5日(日)
 10:00 - 18:00(月休)但し9月15日は開館・16日は休館
 「至福のプライベート空間を(アシッド・ブルーム)なインテリア/デコレーションで再構成」
 http://www.syabi.com/