誰にでも、ふと幼いころを思い出す時、印象に残っている絵本が一冊や二冊あるだろう。お母さんやお父さんに読み聞かせてもらった記憶、わくわくしながら次のページをめくる気持ち。それは時が過ぎた今でも絵本を開くたびに蘇ってくる。そんな素敵な絵本を作っている、ささきみおさんにお話を伺った。
相手の期待に応える、ということ
「絵を描くのは昔から好きでしたが始めからこの仕事をしようと思っていたわけではなく、私に対するその時その時の社会のニーズに合わせていった感じです」。現在の職に就くまでの経歴について、ささきみおさんはこう語る。影響された絵本やあこがれた作家の存在が絵本作家を志した理由ではないそうだ。武蔵野美術大学では油絵を描いていた。その後、日本大学の林学科を卒業し、デザイン会社へと就職する。イラストのカットを描く仕事を受け持ち、自分の趣味で絵を描くのではなく、お客相手に仕事をするということを学んだ。次第に教育関係の方面から仕事依頼を受けることが多くなった。そして、絵本関係の団体に入ったのを機に彼女は絵本を描き始める。
2000年、デザイン会社を辞め、独立。始めは扱う絵の分野が広く仕事も少なかったが、仕事の内容を幼児関係に絞っていき相手の希望にできるだけ応えるようにすると、ささきさんの力を知り必要としてくれる人たちから依頼が増えた。現在はデザイナーでありアイデアマンでもある夫、品川幸人さんとの二人三脚で国分寺市にあるイラストのしっぽ舎を拠点に絵本の制作受注や個人制作の手伝い、アドバイスなどをしている。
「絵本はみんなで作る」というイメージをもとに今まで多くの依頼に応え、絵本を世に送り出してきた。
絵本を“描く”、ということ
作家や芸術家は自分の個性を大事にし、画風などにこだわりを持つ。一般的にそう思われているだろう。しかし、ささきみおさんとの話の中で、必ずしもそうではないと知る。「自分の好みだけ、には走らないようにと思っています。その気持ちから逸脱してしまうとただの好きな絵になってしまうし、あくまでも喜んでくれる人がいて自分が作る。依頼に柔軟に対応できるよう、主張しすぎないように、と考えています」
絵にも流行がある。絵の流行は変わってしまうので、「自分はこれでいいや。アートだ」と時代を感じずに描いていると、いつのまにか色合いや子どもの顔などが古くなっていたりするそうだ。「昔は絵画をやっていたので芸術志向でしたが、人に喜ばれるものと自分が書きたいものとは全然違うということを社会人になって知りました。絵本の依頼者の声をちゃんと聞きとり、社会の流れなどを重視していないと、喜んでいただけるものが作れないと思っています」と彼女は語る。絵本における“絵”の役割で大切なのは、「自分の絵の持ち味やこだわり」などではなく「絵本の伝えたい内容が読み手にちゃんと伝わるようにサポートすること」であると考えて、分かりやすくストレートな表現を心がけ、謙虚な姿勢で仕事に臨む。
技術的な面においても、細やかな配慮を怠らない。例えば、最初と最後のページの完成度が作業を進めていくうちに変わってしまわないように絵柄やタッチに気をつけるなど、絵本では全体の構成を考えて描くことが大切だと言う。また、他の多くの仕事をしているうちに様々な技術が身に付く。その身に付いた技術で知らず知らずのうちに楽な表現をして、始めの打ち合わせと違ってしまわないように努力している。
子どもが与えてくれる、ということ
「子どもができたら仕事が増えだしました」絵本作家であるとともに母親でもある彼女は子どもが仕事に与える影響についてこう語る。子どもができると以前までは分からなかった“子どもを持つ”という感覚や新たな視点などが加わり、表現や作品に対する姿勢にも変化が表れた。子ども相手の仕事なので、なおさら“子どもを持つ”という実感を伴った視点は作品に良い影響を与えるそうだ。買い手は主に母親や父親だ。だから親が自分の子どもに見せたくなるような絵本であることや、読み聞かせる際に子どもたちにとって分かりやすい絵本であることなどが重要である。
「子どもでも読みやすく、誰が子どもに読んであげても盛り上げやすくて喜んでくれるものが作れるように意識しています」。子どもたちが喜ぶものを知るのは難しい。しかし、自分の子どもを通して子どもたちが持つ興味に気づく。話を聞いているうちに、彼女の「絵本はみんなで作るイメージ」という言葉の意味がわかった気がした。
絵本に託す思い
絵本を作る際、やはり読み手が感受性豊かな子どもであるだけに、心がけることがある。「より良く子どもたちが成長していってくれるようにという願いはどの作品にもあると思います。だれしも自分の子どもには不幸があってほしくないし元気に育ってほしい。それは共通のテーマですよね」と話す。そのため、子どもたちに偏見を持たせないように、色、表現などにも配慮している。
現在は環境について何かできないかと考えているそうだ。「このテーマで作る人自体が少ないけど、いま大事なことになってきているので、いいもの、メッセージを作っていけたらいいなと思います」。重要な問題になるからこそ子どもたちに知ってもらいたい、伝えたいとささきみおさんは今後の活動へのまっすぐな気持ちを語ってくれた。
幼いころの記憶を彩る絵本には、作り手の「元気に育ってほしい」という願いが込められていたのであった。
武蔵野美術大学短期大学部、日本大学農獣医学部林学科卒。
デザイン制作会社を経て2000年よりフリーとなり、イラストレーション制作の「しっぽ舎」を開業。
絵本づくりやイラストに対して幅広いサポートをしている。現在、環境ビジネス・福祉を応援。
イラストのしっぽ舎
東京都国分寺市新町2-2-47
042-207-5547
http://www.shipposha.jp/














