私たちが日ごろ自室や電車の中で、何気なく楽しんでいるCD。何十万枚もCDを売り、テレビでも引っ張りだこになる一流アーティストたちの世界は華やかだが、そこに到達するまでの道のりは、長くて険しいものだ。そんな道のりを行く人たちを、CDの自費出版を請け負う形で支援する、「ぷれす屋さん.com」というホームページがある。サイトの運営者、飯田豊さんは何を思い、この仕事を始めたのか。彼の音楽に、仕事に、アーティストたちにかける思いを追った。
「ぷれす屋さん」という仕事
一流を目指すアーティストがCDを作りたいと思っても、では誰に依頼して、どのように作っていけばいいのかがわからない。ぷれす屋さんの仕事は、そういったアーティストたちを手助けすることだ。ホームページや電話を通じて、CDの自費出版の注文を受けている。「ホームページでできるだけ噛み砕いて説明して、わからないことはなんでもいいから聞いてみてください、お教えしますよ、と。できるだけ親しみを込めてね」
ぷれす屋さんは単にCDの製作を行うだけではなく、CDの顔であるジャケットの作成を行ったり、その後のプロモーション活動のちょっとした手助けをしたりと、仕事の内容は多岐に渡っている。例えばホームページを見てみると、自社で製作したCDの通信販売が行われている。あるいは他のホームページにリンクを張ってもらったり、パンフレットを作ってライブハウスにおいてもらうことも。単なる「親しみやすいCD出版工場」を超えた、本格的なアーティストへの支援が垣間見えてくる。
ものを作ることへの憧れ
飯田さんは始めからこの仕事に就いていたわけではなく、以前は広告代理店に勤めていたのだという。しかし、ただ依頼されたものを作るのではなく、自らものを作るということに憧れていた。「ただ単にものを作るのではなく、もう少しセンセーショナルな、世の中に影響力のあるものを作りたい」。そんな思いを抱いていた飯田さんは、華やかな音楽の世界へ飛び込むことを決意し、当時レコード盤やカセットテープを生産していた会社に転職した。その後しばらくして、音楽業界はレコードからCDの時代へと移行する。飯田さんの会社も当然CDに目をつけたが、ただ単にCDのプレスを行うだけでは同業他社と変わらない。そこで始めたのが、インディーズの人たち向けのCD製作を行う事業だ。
「どうやって作りたい人に巡り会うか。向こうから来ることを考えよう。作りたい人が向こうから訪ねてくれたほうがいい」。そこで自分のCDを作ることを夢見るアーティストたちが、自ら門戸を叩けるよう、ホームページ「ぷれす屋さん.com」を開設した。始まったばかりのまだ新しい事業だが、すでに数多くのアーティストたちが、このホームページを訪れ、飯田さんに相談を持ちかけている。
パートナーとして
「お客さんはパートナー。同等の立場に立ってお話ができる。本当はどの仕事でもそうじゃなきゃいけないんだけど、なかなかそうはいかない。世の常でね。そういうことが実現できるのは本当にありがたい。そういう意味ではとても面白い仕事ですよ」。飯田さんは常にアーティストの人たちのことを考える。例えば、何千枚とCDを作り、売れ残った在庫を見ながら挫折していくアーティストが多いことを受けて、飯田さんは100枚という少ない単位からの生産を勧める。音楽業界の厳しさ、なかなか売れないという現実を知っているからこそのアドバイスだ。アーティストたちに作ったCDを少しでも多く売ってもらうためには、CDショップへ持ち込んでみることを勧めたり、イベントがあればそのライブハウスを紹介したりする。ただし、何もかも手取り足取り売込みを代行するわけではなく、あくまで「売りたかったら自分たちで売ってほしい」と語る。飯田さんが行うのは、そのための手助けだけだ。
「インターネットの商売だからといって、ずっと机の前に座ってパソコンいじってたりしたんじゃダメ」。そう語る飯田さんは、何よりも実際に行動を起こして人と会い、人脈を広げていくことを大切にする。アーティストたちとの関係も、「お客さんではあるんだけど、お友達になったり、いろんなつながりができて」いくという。言葉の綾ではなく、本当にお客であるアーティストたちはパートナーなのだ。世話を続けたアーティストの中には、数千という枚数を売れるようになった人たちもいる。「CDが売れてきて、ようやくアルバイトをしなくても食べていけるようになりましたとか、そういうことを聞いたときは嬉しいですよね」
オリジナルへのこだわり
インターネットを舞台にした仕事は、決して楽なわけではない。「インターネットの仕事ってね、決まった勤務時間がないのよ。ホームページは開いてるわけだから、寝ているときに電話がかかってきたりとか……。自分の私生活と仕事の生活とが混同してしまっている」。日本中どこにいても、すばやく注文への受け答えができるようにという努力をしたがゆえに出てきたつらさだ。だが、「辞めたいと思ったことはありますか」と、そう聞いた私に、飯田さんはすぐ首を振った。
「それはないですね。辞めたいなんて思ったことは一回もないです」。迷いのないその言葉の裏には、この仕事にかける思いの大きさがある。だからこそ、仕事に対しては自分だけのこだわりも持っている。「同じものを作ってるんだけど、人とは違うものを作ること。お客さんが思っているものを、そのまま具体的に出すんではなくて、それにプラスアルファをつけくわえて出していく。そういうことをしていきたい。そこに私がいること。誰にでもできるんじゃなくて、私がいたからこれがプラスされたんだという、独自のものを出していきたい」
ただの仕事ではなく、自分だからこそできる、センセーショナルでオリジナルな仕事を。アーティストたちもまた、自分だけの音楽を目指して努力を重ねている。共に自分だけの仕事を志すものとして、同じ思いを持つからこそ、単なるビジネスの間柄を超えたパートナーとしての関係が、飯田さんとアーティストとの間に築かれるのかもしれない。
広告代理店への勤務ののち、現在の会社に転職。
2005年よりホームページ「ぷれす屋さん.com」を運営。
ぷれす屋さん.com
http://www.press-ya-san.com/














