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 競馬でサラブレッドが美しく駆けるとき、ホースショーで華麗に障害を飛ぶとき、その細い肢を保護し支えているのが蹄鉄だ。蹄鉄はつけ方によっては馬の能力を向上させることもできるが、反対に馬体を傷つけてしまう場合もある。そんな蹄鉄を自在に操る職人・深水真吾さん。競馬場で開業している装蹄師だ。ときに馬の生涯を左右する装蹄という仕事、そこには馬への思いと責任がある。
記者:大西碧

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point 深水さん登場

 「鉄を打っている時は汗だくですから、スポーツドリンクをがぶ飲みしながらやってます」そう話す、大きな目が印象的な深水さん。快活に話しながら、1000度にもなる真っ赤な鉄の棒をハンマーでリズミカルに叩いてあっという間に蹄鉄を1つ完成させてしまう。その速さは毎日の鍛錬で培われたものだ。

 蹄鉄に微調整を施すと、それを抱えてバイクに飛び乗り競馬場内を走り抜ける。馬房に到着した深水さんは早速装蹄に入っていった。中腰になり馬の肢を一本持ち上げると、馬は安心して肢を預けてくる。馬体全体が500kg程もあるので、その一部とはいえ装蹄師には相当の負荷がかかるもの。一時の気の緩みが即大怪我に繋がる、常に危険と隣りあわせの作業だ。

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 馬主らと談笑しながら手早く装蹄していく深水さん。「自分は1カ月に一度しか見られないから、馬の普段の状況を聞くのはとても重要ですね」と、馬主との情報交換を重んじている。しかし、彼が今のワークスタイルを確立するまでの道は、決して容易なものではなかった。

point まったくの偶然の出会い

 深水さんが装蹄師になろうと思ったのは中3の時。たまたま見に行った高校の学校説明会で見た造鉄の実演で、「鉄をたたいている」ことに興味がわき、やってみたいと思った。「たたいているのが馬につくものだなんて、思いもしませんでしたよ」。そしてそのまま高校の装蹄科に飛び込んだ。

 高校卒業と同時に装蹄師の資格を取って弟子入りするものの、そこでは親方の作業を見ているだけで、手伝い程度の事しかさせてもらえなかった。せっかく高校で学んだ技術もこのブランクで衰えてしまい、名ばかりの徒弟制に辟易した。「当時の給料が月10万で風呂ナシ、トイレ共同の安アパート。本当にキツかった」と振り返る。次に師事した親方も弟子は道具だと考えていて後陣を育てようとする気がなく、不満がつのる。

 そして何より、「今まではこうして治していた」と言い張って、新技術の導入、技術の向上を目指そうとしない現場、知識がないゆえに「助かる馬が助からない、治るものが治せない」現場への憤りがどうしようもなく膨らんでいった。

 そして2006年、16年の弟子生活にピリオドを打って、当時同じように現場に不満を抱えていた獣医師の美濃輪史子さんとともに独立。「人間の足のように馬も蹄の形は決まっている。でも蹄鉄は状況、運動量・場所によって、人が靴を選ぶように違ってくる。治療の際も、既存のクツでどうにかしようとするのではなく、症状にあわせてクツを創造できるようにしていきたい」。熱い思いを胸に、装蹄師と獣医師が共同で総合治療にあたる『馬のトータルケア』を開業した。

point 体制打破!

 深水さんが現場で一番気になったこと、それはサービスを提供する側と享受する側のいびつな力関係だ。「馬主がおかしいと思いつつもクラブのオーナーの意見に逆らえなかったり、良くないとわかっていても装蹄師や獣医師を変えられなかったりすることがよくあるんです」と話してくれた。このおかしな権力関係は古くから、業界のいたるところで見られる。「治療を行う過程で不安なことがあればどんなことでも言って欲しいんです」。深水さんは強調する。「そうしたらちゃんと説明しますから。両者がディスカッションを重ねることが大事なんです」

 問題は、素人だけでなくプロの調教師などの間でも、馬に関する基本的な情報が共有されていないことだと深水さんは指摘する。例えば馬の細い肢は、歩くだけでも腱や筋肉を使って蹄骨をコントロールしなければならない。前を走る馬の蹄跡ですら肢をくじいてしまうほど繊細なものだ。ただでさえ滑りやすい雨馬場ではさらに注意が必要になる。でも残念ながらそれを分かっている調教師、クラブオーナーは数少ない。それゆえに、様々な場面で根拠のない、見当違いな指示を出されることがあるという。

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point 改革始動

 深水さんが目指すのは、いわば乗馬界のインフォームド・コンセントの普及。これからの方針は「偏見なく、教科書レベルの知識を広めること」。そのために、深水さんは自身のホームページで病気のメカニズム・症状・治療法、蹄鉄の値段や治療費などの情報を公開している。それらは普通、お客さんには秘密にされているものなので同業者からはバッシングを受けることもあったという。「それでも理解を示してくれるオーナーさんや厩務員は増えてきています」と力を込める。

 学校説明会で造鉄の実演を見てから足掛け20年。「先生と呼ばれて思い上がっては駄目なんです」。閉鎖的な世界をもっと開放するための改革が今、始まろうとしている。

profile
深水真吾(ふかみず・しんご)

1971年、東京生まれ。南関東競走馬装蹄師会所属。
装蹄師の全国大会や海外での装蹄師競技大会など、数々の競技大会で入賞。
(’05 南関東競走馬装蹄師競技大会では優勝)
2006年6月、装蹄師と獣医師による総合治療の『馬のトータルケア』開業。

馬のトータルケア
http://www.horsecare.jp/

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