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 「たまにはクラシックでも聴いてみようか……」そんな時、ピアノ曲を聴いてみてはどうだろうか。CDを買うもよし、コンサートに出かけるもよし。ピアニストたちの“全力”の音色を心から楽しみ、喝采を贈ろう。そしてピアニストが存分に力を発揮するために不可欠なのが、ピアノの状態を整える調律師。今回は世界中のピアニストと共に仕事をされてきた、調律師の早藤淳さんにお話を伺った。 記者:森朝野

point コンサートの前に

 ピアノのメンテナンスには3つの作業がある。音程や音の伸びを整える「調律」、メカニックを調整する「整調」、そして音色と音のバラつきをなくし、全体を1つの楽器として仕上げる「整音」。調律師は、これらの作業をリハーサルの前までに終わらせている。

 早藤さんは、演奏者が1台のピアノで様々な楽曲を表現できるようにメンテナンスをしている。演奏形態や演奏者、各ホールでの音の響き方、さらには作曲者や演奏者がどこの国の出身かということまで意識してメンテナンスすることもある。そうすることで、ステージのもつ雰囲気が微妙に変わっていく。

 また、メンテナンスを担当する技術者によってピアノの音は変わる。「単なる1つの音といっても、音色を創る人がどのようにその音を聞くかによって、音が変わるんです」。たとえ同じ作業をしていても、そこから出てくる音は個人個人で全く違うものになる。

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point 1枚のレコードから

 早藤さんが調律師を目指したきっかけは、 1枚のレコードだった。学生時代に聴いたレコードに、3社のメーカーのピアノの音が収録されているものがあり、どのメーカーのピアノの音かを当てる、ということを友達とやっていたという。その3台のピアノが持つ音色は、それぞれ全く違うものだった。そのことがきっかけとなり、「自分でその違いを、音色を創りたい」と考え、調律師という道を歩み始めた。

 調律師は様々な場面で必要とされている。コンサートやレコーディングはもちろん、家庭に置かれたピアノのメンテナンスを依頼されることもある。「どうせやるならこれらをオールマイティにこなせる仕事をしたい」。そのためには東京に行く必要がある、そう思った早藤さんは、故郷の山形から上京した。

point ピアノに注ぐ力

 現在早藤さんは、コンサートで使うピアノのメンテナンスを主に行なっている。ピアノの状態にもよるが、通常はメンテナンスにかかる時間は2時間ほど。しかし海外から著名な演奏家が来日した場合などは、1日がかりで作業することもある。通常どおりメンテナンスされた楽器では、アーティストの要望に応えきれないというのがその理由だ。

 また、レコーディングでのピアノメンテナンスを行うこともある。1枚のCDを録音するのには大抵2~3日かかるが、この場合は楽器を常に同じ状態で保たなければならない。1枚のCDの中でピアノの音色・調律が大きく変化しないようにすることが必要になる。

 このような仕事を、早藤さんはほぼ毎日こなしている。「毎日作業をしていないと感覚が狂ってしまい、安定した楽器を提供できなくなる」と早藤さんは語る。しかし過度の負担があってはならない。例えば風邪をひくと高い音の聞こえ方が変わり、楽器の仕上がりが劣ってしまう。「疲れなどで自分に精神力がない状態では、楽器にパワーを吹き込むことも、楽器からパワーを引き出すこともできない」。意識的に仕事の量をコントロールすることが重要になってくる。

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pointアーティストの存在

 「自分たちの仕事を一番よく分かっているのはアーティスト」。早藤さんはこう話す。コンサートで使うピアノについて、アーティストからは様々な要望が出される。演奏者が楽器に触れてみて、「今の楽器の状態では楽曲を表現できない」と感じたときに「何とかしてくれ」と呼ばれることも多い。「アーティストからは色々な要望が出ます。でも、最初からそれらの要望全てに応えているような楽器だったら、アーティストから要望が出ることはありません」。早藤さんにとって一番悔しいのは、自分の技術が足りなくてアーティストの要望を満たせない時であるという。

 世界中のアーティストとともに仕事をされてきた早藤さんにとって、今までにこなした全ての仕事が印象深い。特に、怒られたり、辛かったりした仕事が良い思い出になっている。その中で、アーティストから学ぶことも多い。「自分を育ててくれたのはアーティスト。アーティストからの色々な要望に応えて、満足してもらえるような楽器を提供する。その積み重ねで技術を磨いていくんです」。アーティストがフルに使えるような楽器を提供できるような作業を続けていくことが、今までの仕事であり、今後の目標でもある。

 調律師として嬉しいことは、「自分でも満足のいくような楽器を提供でき、アーティストの側でも自分が思っていた以上に、その楽器を音楽表現に使ってくれること」。常に技術を磨き、音を創り出していく。聴衆の喝采は、そこから生まれる。コンサートに、レコーディングに。ピアニストのいる場所全てに不可欠な存在。それが、調律師である。

profile
早藤淳(はやふじ・じゅん)

杵淵ピアノ調律所に在籍後、オーストリアにて楽器修理、整音、メンテナンス、
コンサートテクニック等を学ぶ。帰国後、(株)松尾楽器商会に委託技術者として在籍。
現在は独立し、コンサート・ピアノのメンテナンスを中心に活動している。

JUN-Klavier工房
東京都練馬区貫井1-35-6-101
03-3970-5617

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