津久井火工


JR横浜線橋本駅からバスで約1時間、神奈川県の国定公園内にある津久井火工を訪ねた。 打ち上げ花火の製造・打ち上げを行っている会社だ。

バスの乗り継ぎがうまくいかず、途中の停留所であやうく1時間もの足止めを受けそうになった取材班を、 わざわざ取締役営業部長の川上さんが車で迎えに来てくれた。なかなかお洒落な方だ。

のどかな風景の中を走り抜けて工場に着き、事務所に通され、さまざまな話をうかがった。
川上さん 「花火には打ち上げ花火・玩具花火・特効用花火の3種類があります。うちでは主に打ち上げ花火を扱っています。従業員は本社に4人、工場に8人と小規模なものですが、どの花火工場も似たようなものだと思います。 すべてを手作業で行わなければならないので、必然的にそうなってしまうんですよ」
確かに、工場内を見渡しても、花火製造の機械は全く見当たらなかった。火薬を扱っているため、火気は厳禁のようだ。 驚くことに、工場内では火や電気を使って明かりをつけることもできないらしい。 そのため、採光手段は窓から射し込む日光となってしまう。作業時間も朝8時半からの7時間のみだ。
また、花火製造に関する免許は数種類あるが、製造者全員がそれを持つ必要はないため、 実際に花火を作っているのは、花火職人からパートの主婦までと様々な顔ぶれだ。

 まず、花火に関するさまざまな話を聞いてみた。
「花火はもともとが球体なので、打ちあがった花火はどこから見ても円に見えます。 しかし一時期流行した、ハートなどの形に打ちあがる型物と呼ばれる花火は、決まった位置からでないときれいに見えないために、現在はあまり使われなくなっていますね。今のところの最新の花火技術はクロセットというもので、打ちあがった際に花火が四方に開くものです。2次点火という現象を利用しています。火薬は中国から今の愛知あたりに伝来し、その後江戸へ伝わったと言われています。そのせいか、愛知よりも西には花火会社がほとんど無いのです。ですから、我々が西日本へ出張して花火打ち上げすることも少なくないんですよ」

 花火づくりの醍醐味は何ですか?
「ほかの工場では、大会や競技会でよい成績を出すことや、新技術の開発を目標にがんばっているところもあるみたいです。でも、うちでは花火の打ち上げに趣向を凝らし、工夫してよりよい演出方法を考え出すことに力を入れています。仕事の内容はほとんど同じでも、どこに醍醐味、魅力を感じてるかは人それぞれでしょうね」

 また、不況不況と叫ばれているこの時勢、その影響はどのくらいあるのだろうか。そのことについても尋ねてみた。
火薬庫。何重にも鍵がかけられている 「花火業界はこの不況下でも右肩上がりで売り上げが伸びていました。でも、ここ数年間でとうとう不況の波が押し寄せ始めてきたようです。具体的には企業協賛の花火大会が減っている状態です。うちは自治体主催の花火大会の仕事が多いので、今のところは大丈夫ですけれども、厳しい状況に置かれている会社もあるようです。」
「そしてもうひとつ見過ごせないのは中国の存在です。私たちのところで打ち上げている花火は年間に約3万発ほどなのですが、実はその約7割が中国製なんです。いまや、中国は花火業界で世界のトップクラスとなっています。ひとつの理由は、みなさんの想像通り、値段が安いことですね。でもそれだけにとどまらず、今や技術の面でも世界のトップクラスなのです。花火をよく打ち上げている国は、日本だけではなく、フランス、イタリア、スペインなどがありますが、それらの国々が安いコストにひかれ、自国の技術を用いて中国で生産し始めたところ、中国は他国の技術を集大成するような形で、優れた技術を自分のものとしてしまいました。どの業界でも同じような悩みがあるのでしょうが、花火業界も決して例外ではないのです。」

後継者に関する問題はありますか?
「華やかな花火の世界にあこがれて、職人になりたいと思う人はたくさんいるようです。だから後継者不足という問題はないですね。でも、花火の華やかさとはうって変わって、花火製造は体力勝負の仕事なんですよ。だから、思い描いていたものと現実とのギャップや仕事の大変さに耐えられなくなってやめてしまう人もいます」

じゃあ、川上さんはどうしてこの仕事を選んだのですか?と聞くと、意外な答えが返ってきた。
「僕は火薬を扱うのが好きなんです。この仕事の前には自衛隊で火薬を扱う仕事をしていました」

打ち上げ管を上から見るとこうなる 最後に、4号サイズ(直径12cm)の紅牡丹という打ち上げ花火を私たちのために打ち上げてくれた。これは150m上空で60mもの直径で開くそうだ。今まさに打ち上げられようとしている花火に期待は高まる。導火線に点火されると、「ドン」というごう音とともに衝撃が走る。
すぐさま上を向いたところ、一瞬の間があった後、紅色の大輪が鮮やかに花開いた。美しい光景だった。

日本の夏の風物詩として私たちの生活に欠かすことができない花火。時代が移り変わり、社会が変化していく中でも、彼らはいつまでも変わることない美しさを創り続けていくのだろう。

【坂井妙子】



参考URL:津久井火工