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靴職人 上田哲司さん

モノを知る人の集う街、銀座。静かな路地にこぢんまりと小さな靴屋がたたずむ。店内には黄色いあかりがまどろんで、サティのピアノ曲が優しく響く。オーダーメイド靴店Tetsujiya。ドアを開けると、真正面に座った男性が手を止め顔を上げた。まっすぐな目。「入り口の正面で作業すれば客の顔がすぐわかるからね」。靴職人、上田哲司さんは言う。「その顔を見るといつも、がんばらねばと思うんだ」

やりたいことがあるから不安なんてない

もともと靴に興味はなく、大学では4年間、工業デザインを学んだ。就職活動では四輪デザインをやろうとホンダをうけたが不採用、そのままずるずると何もしない日々が続いた。「これではだめになる」。就職掲示板を見ると靴メーカー、リーガルに目が留まる。日常で使うものをデザインするのが好きだった。靴を作ってみてもいいかもしれない。

靴が好きで決めた会社ではない。しかし入社後の研修で、自分が作ったものが使われることにやりがいを感じるようになる。「とにかく精一杯やってみた。3カ月後には靴作りが面白くなっていたんだ」

仕事をしていくうちに、靴が足にあわずに苦しむ客がたくさんいることに気づく。日本にある既製靴では彼らにあう靴は一足もなかった。それならば自分で作ればいい。会社に入って3年が過ぎた頃、留学を考え始める。行き先は靴の本場、イタリア。しかし以前修学旅行で韓国に行ったことが唯一の海外経験である。イタリア語は2,3語しか話せないし、向こうにあてがあるわけでもなかった。「でもまったく埒があかないなら帰ってくればいいからね」。自分が行動すれば何かが変わる、動き出す。「やりたいことはやるべきなんだよ。できない理由ばかり考えて、楽な方向に逃げていては何も変わらない」。身一つでイタリアへ飛び立つ上田に、ためらいや不安はかけらもなかった。

イタリアでは散策中に見つけた靴工房を直感で修行先に決め、そこへ通った。「最初はよそ者だったけど、毎日通えば認めてくれたよ」。半年もした頃、修行先の主人が自分の息子の服をくれたという。

ある時、壊れた自らの靴の修理を、道具を借りて見よう見真似でやってみた。その様子を見ていた主人はしばらくして、その道具とともに客の修理靴を彼に渡した。一人で靴を作ったのはそれから1年たった頃だった。「何も教えてはくれないからね、すべて自分で盗むんだ」。2年後、帰国した。

金持ちの道楽にはしたくない

今は銀座で一人で作っているが、大きな夢がある。オーダーメイド靴は足の採寸から始め、各足にあった木型を作り、その後それに沿って革を張る。現在の靴作りでは、木型は職人のひと削りで一人ひとりの足にあわせているため、やはり作れる数に限界がある。「それだと値段は高いまま。僕は、安い既製靴か高価なオーダーメイド靴しかない今の状況を変えたい。オーダーメイド靴を、金持ちばかりが趣味のために買い、飾っておくだけのものにはしたくない」。彼は、木型をいくつかのブロックに分け、それらを組み合わせることによって各自の足にあった木型を作るという構想を練っている。「毎日、靴の底すり減らして歩き回る営業の人に、履いてもらいたいんだ」。サラリーマンでも手の届く靴を。足にあう靴をより多くの人に履いてもらいたい。

「ファンの皆さんのおかげです」

企業に勤めていた頃はわからなかった。「ファンの方の応援があったから」。芸能人やスポーツ選手がよく口にするこの言葉。単なるリップサービスだろうと思っていた。でも今は違う。「たくさんの人に助けられた。いい環境を作ってくれていた。次は、僕が返す番だ」。オーダーメイド靴だからこそ、一人ひとりの顔が見える。守られていることに、今さらながら気づく。「世のため 人のため」。イタリアへ渡ったのも。オーダーメイドを始めたのも。そして、これからも。そう追求するからこそ。彼にとって靴は手段にすぎない。靴を作って、返していくのだ。

踊らされてはだめだ

イタリアでは親が本物を伝えていた。モノに何が宿るかを知っていた。だから高校生でもきちんと靴紐を締めていたのだ。日本では、紐をゆるめに結んでおいてそのまま履き、あげくのはてにかかとを踏む。モノとは何であるのかわかろうともしない。「日本人はアリのようだよ」。メディアに振り回されすぎて、いいとされるブランドによってたかっている。「自分の目でいいものを見つけるんだ。そこに職人の魂を感じてほしい」。彼の魂。やわらかな光を放つなめし革にそれは宿っている。

上田哲司さん
73年生まれ。大学卒業後(株)リーガルコーポレーションに勤めるが日本の既製靴に限界を感じて渡伊、「MANNINA」で2年間修行。05年、会社設立と同時に「Tetsujiya 銀座店」をオープン。
Tetsujiya
 住所 東京都中央区銀座1-20-6クレグラン銀座レジデンス1階
 TEL・FAX 03-3564-1192
 HP http://tetsujiya.com/
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記者:島村美怜
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